3.【事例】アウトバウンドのモニタリングとは
アウトバウンドの品質管理はしていますか?
モニタリングにより、アウトバウンドの成果アップに成功したB社の事例をご紹介します。
(1)獲得型アウトバウンドの場合
次は、銀行B社の事例をご紹介しましょう。この企業ではインバウンドセンターの他に、アウトバウンドセンターが2つあり、それぞれ異なる業務をしていました。1つめは、取引履歴がある顧客に対し、より特典のあるカードのアップブレードをお勧めするというものです。そのカード自体は提供サービス重視型で、顧客側のメリットが大きいといった商品力があり、高い成果が期待されると同時に、その後の同社の顧客囲い込み戦略上、全社的にも重要な施策でした。
コールの目的はシンプルで、1件でも多くカードアップグレードの申し込みを獲得することです。そのため、スクリプトもカードのあらましやメリットにフォーカスした内容にまとめ、顧客の「理解」(どんなカードなのか)と「納得」(顧客にとってどんなメリットがあるのか)を得ることに注力しました。また、モニタリングの評価基準は、スクリプトの内容に応じて必要な要素が盛り込みました。
また、顧客はB社に対し、潜在的に高いロイヤリティを持っていることが事前のマーケティング調査で分かっていたため、B社の信頼性・ブランドを維持・向上させることも重視しました。まず、基本となる「スキル」(電話でコミュニケーションする上での基本的な技術)では、B社の代表として恥ずかしくないレベルの応対を目指し、オープニングや言葉遣いや声、会話の間や傾聴の姿勢などの細かなトークスキルのチェックに重点をおいたのです。
獲得型コールに不可欠な要素として、会話のキャッチボールにつながる投げかけや顧客の返事に対する受け答え方なども評価基準に含めました。さらに、コミュニケーターの姿勢を規定する「マインド」では、「社の代表として相応しい態度かどうか」という一般的な内容に始まり、「商品を魅力的に伝えているか」「コールの最終的なゴールを意識して努力・工夫をしているか」といった獲得型アウトバウンドコールに不可欠な目的意識の確認までを盛り込んでいます。
また、お勧めするカードの機能は多岐にわたっていたため、商品に関する「知識」もモニタリング評価基準の重要な要素としました。
(2)相談型お勧めアウトバウンドの場合
前述のコールは比較的シンプルな内容であったのに対し、次に紹介するコールは顧客のこれまでの取引履歴を考慮して、個別に金融商品のお勧めをするコンサルティング要素が必要なもので、より高レベルの内容となります。
このコールは、長年実施されていたのですが、マンネリ化している懸念もあり、まずはモニタリングによる現状調査を実施した上で現在の課題を明確にしました。
調査の結果、課題として、1)コールの目的そのものがわかりにくいこと、2)おしゃべりとご提案が混在し、会話が不必要に長い傾向が見られること、3)顧客側の金融や運用に関する知識レベルが非常に高く、コミュニケーターのレベルアップが求められていること、という3つの課題が明らかになりました。 それらの結果をもとに 、スクリプト作成や評価基準の見直しなど一連の業務に着手することになりました。
3つの課題のうち、1)2)はコールの内容に起因しています。このコールは、これまで購入した商品や好み、予算などによってカスタマイズ可能な仕組みであったため、顧客の話を詳しく聞く必要があったのです。
その結果、どうしても最終目的(商品のお勧め)にフォーカスすることができず、ヒアリングや商品の相談が延々と続き、会話の目的を見失っていました。当然ながら会話が冗長になって、通話時間も長くなり、お客さまからは「結局、何の電話だったの?」という事態に陥ってしまっていました。
そこで、コール本来の目的を明確化したスクリプトを開発して会話をコンパクトにまとめ、それをベースにモニタリング評価基準を検討。具体的には、通常では「スキル」「トーク」「マインド」「知識」といった分野別に評価項目を設けるところ、それらの4分野に加えて、スクリプトの流れと連動する形でセールスプロセスの評価を導入しました。
具体的には、「オープニング」→「電話の目的の伝達」→「顧客の好み・ニーズの把握」→「顧客に合った商品のお勧め」→「顧客の行動(購入)を喚起するための投げかけ」→「クロージング」といった各プロセスに合わせた項目を設ける格好となったのです。
このように、セールスプロセスと連動した評価項目を導入することにより、コミュニケーター自身が会話の構成を意識するようになる一方、管理者サイドはどこまで会話を進められているか、という点についてもチェックできるようになりました。
実際、こうしたセールスのコールでは、的を得たヒアリングができない、その結果、魅力的な提案に結びつかない、といった課題が発生することが多いのですが、プロセスを整理して評価することで、コミュニケーターが躓きやすいポイントが明確になり、対策を講じることが可能になりました。
さらに、3)知識面の課題については、知識研修のカリキュラムを見直しました。それまでは、「知っておくべきこと」と「会話に出てくること」が混在した膨大な学習内容となっていましたが、それらを整理し、会話で出てくる内容についてはコミュニケーター自らが自身の言葉で話せる理解レベルを目指すことにより、自信を持った会話展開が可能となりました。
(3)キャリアパスの仕組みづくり
評価基準が整理されると、2つのコールの相対的な難易度の違いが明らかになります。もともとコミュニケーターの間には、「シンプルな獲得コールの方がコンサルティングコールよりもやりやすい」という漠然とした感覚はありましたが、評価基準の策定によりどちらに何のスキルが必要であり、どれだけ難易度が高いかが目に見える形になります。
たとえば、前者のカードの申し込み獲得コールでは、基本的なスキルに加えて、商品をわかりやすく説明し、申し込みを促進するセールススキルが必要とされますが、後者のコンサルティングコールでは、顧客のニーズを聞き出し、お勧めのプランを瞬時に検討してから、セールスに入ります。
また、カード申し込み獲得コールでは必要とされるのは商品関連の情報が中心であるのに対し、コンサルティングコールでは、どのような方向に会話が発展しても対応できるよう、関連する分野についての幅広い情報が不可欠です。さらに、顧客の取引履歴や好みから最適なカスタマイズパターンを判断する能力も必要となります。
このように2つのコールの違いが明らかになったため、B社ではそれぞれのコールに対応するのに必要な要素を整理し、それをコミュニケーターのキャリアパスに連動させました。まず、デビューしたて、あるいは初めてアウトバウンドコールを担当するコミュニケーターはカード申し込み獲得コールから開始します。
業務経験を積み、成績とモニタリング評価基準において一定のレベルを安定的にクリアした時点で、このチームにおけるシニアコミュニケーターとなります。さらに、一定の成績をおさめるのと同時に必要な知識などの研修やテストに合格すると、コンサルティングコールチームへ昇格します。
その後はコンサルティングコールのモニタリング評価基準で評価を受けますが、ここでもある程度以上の成績をあげるようになると、コンサルティングチームのシニアになるという仕組みです。同センターでは、将来的にさらに別のコールにも対応する予定があるため、今後はそれらも含めた総合的なキャリアラダーも検討中です。また、シニアコミュニケーターからスーパーバイザーへの登用も計画しています。
(4)設計時の予想を超えた評価基準の違い
2種類のコールは目的・内容が大きく異なるため、評価基準が異なることはあらかじめ想定されていましたたが、電話のおける基本のコミュニケーションスキルに関しては共通でよいと考えられていました。しかし、実際には、一見すると共通すると見られる基本的な部分にも大きな違いが見られたのです。
その代表的なものが「声」です。通常、同一の会社が実施するコールであれば、同じトーン&マナーが求められると考える向きも多かったのですが、同社のケースでは、メンバーシップカードの申し込み獲得コールでは「明るく、覇気のある声」が評価され、実際にそのようなコミュニケーターが好成績をあげていたにもかかわらず、同じトーンの声でコンサルティングコールを実施するとまったく成績がふるわない事実が明らかになりました。
これは、先に述べたキャリアパスの仕組みで、カード申し込み獲得コールから昇格したコミュニケーターがコンサルティングコールで予想外の苦戦を強いられ、その原因を分析した結果判明したことです。
このコミュニケーターの場合、知識研修やテストの結果も優秀で、セールススキルにも問題がない方です。そのため、会話の流れに慣れることが必要ではないかと、ロープレを中心としたトレーニングを繰り返したが思ったように成果があがらず、モニタリング調査を実施しました。すると、電話の冒頭で断られるケースが多いことが判明したのです。
このことは、会話自体のスキルが問題ではないことを示しており、内容が複雑な金融商品の場合、顧客が声の調子で話し相手として信頼性を感じられるかを判断して会話の継続の可否を判断していると推測されました。そこで、好成績のコミュニケーターの声のトーンを調べたところ、必ずしもきれいな声とは言えないが、営業担当があたかも銀行の2階のオフィスの席から電話をしているようなイメージの落ち着いた声が多かったことがわかりました。
そのため、コンサルティングコールではあえて取り繕わない地声を推奨し、どちらかというと、「金融のプロ」を感じる話し方を指導しました。その後は、通話時間も長時間化し、持ち前の知識や提案力を発揮して、高成績者の仲間入りをするところまで成長をしました。
いかがでしたでしょうか。コールの種類によってもモニタリング評価項目を変化させることにより、より理想に近づけることができるのです。